草木が生み出す彩り:天然染料「藍染め」「マンゴー染め」が持つ色の秘密と化学染料との決定的な違い
STORYが扱うラオスの手織り布は、単なる布ではありません。それは、遠い国で暮らす生産者さんの「想い」と、豊かな自然の恵みである「天然染料」が、長い時間をかけて織りなすアートです。
特に「藍染め」や「マンゴー染め」といった天然の染料で染められた布は、化学染料では決して表現できない独特の色合いと風合いを持っています。このコラムでは、これらの天然染料がいかにして布を彩るのか、その神秘的な工程と、現代の化学染料との根本的な違いを丁寧に解説します。
1. 天然染料が「あの色」になる神秘のプロセス
天然染料とは、その名の通り、植物の葉、根、樹皮、実、あるいは鉱物や昆虫など、自然界から採れる原料を使って色を染め付ける技法です。同じ植物を使っても、その日の天気、水の温度、染める時間、そして職人の手によって、二度と同じ色にはならない「一期一会」の魅力があります。
「藍染め」:発酵が生み出す深い青
藍染めは、世界中で最も古くから行われてきた染色方法の一つであり、「ジャパンブルー」として知られる、深く、落ち着いた青を生み出します。
色が出る仕組み:染料の「変身」
藍の葉に含まれる色素成分は、最初はインディカンという物質で、この状態では水に溶けず、繊維を染めることができません。藍染めの最大の特徴は、このインディカンを発酵という化学反応によって「染料」に変える工程にあります。
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藍の仕込み(スクモ作り): 藍の葉を発酵させて「すくも」と呼ばれる染料の元を作ります。
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発酵と還元(建てる): この「すくも」を木灰の灰汁などで満たした染め桶に入れ、微生物の力を借りて発酵させます。この過程で、インディカンはインドキシルという水に溶ける成分に変わります(還元)。これが藍建てと呼ばれる工程です。
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染めと酸化(空気に触れる): 繊維をこの青い液体(藍液)に浸すと、布にインドキシルが染み込みます。布を液から引き上げ、空気に触れさせると、インドキシルが酸素と結びついて酸化し、水に溶けない青い色素インディゴ(藍)へと変化し、繊維に定着します。
この酸化の工程で初めて青色が発現するため、染め付けた直後の布は緑色をしており、風にさらすことで徐々に青く変わっていく様子は、まさに自然の神秘です。
「マンゴー染め」:樹皮や葉が作る優しいアースカラー
マンゴーは実だけでなく、その樹皮や葉も天然染料として非常に優れています。STORY OMOIYARIの布では、マンゴー染めによって、柔らかな黄色や砂丘のようなベージュ、あるいはオリーブグリーンなど、温かみのあるアースカラーが生み出されます。
色が出る仕組み:媒染による定着
マンゴー染めは、多くの草木染めと同様に、タンニンやフラボノイドといった色素成分を利用します。
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色素の抽出: マンゴーの樹皮や葉を細かく砕き、水で煮出して色素を抽出します。
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染め付け: 繊維をこの色素液に浸して染めます。この時点では色が定着しにくいため、水洗いをするとすぐに落ちてしまいます。
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色の定着(媒染): 色素を繊維に定着させるために「媒染(ばいせん)」という工程を行います。これは、ミョウバンや鉄などの金属イオンを含む媒染液に布を浸す作業です。金属イオンが色素と繊維の間で橋渡し役(架橋)となり、色素をしっかり吸着させます。
マンゴー染めの特徴は、使う媒染剤によって色が劇的に変化する点です。
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ミョウバン媒染:明るい黄色やベージュ系
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鉄媒染:落ち着いた灰色やオリーブグリーン系
媒染のタイミングや種類を変えることで、同じマンゴーの樹皮から何通りもの色を作り出すことができるのです。
2. 天然染料と化学染料:決定的な違い
現代の衣料品のほとんどは、石油などを原料とする化学染料(合成染料)で染められています。天然染料と化学染料は、その原料、色、環境への負荷において、根本的な違いがあります。
違い①:色の深みと「育ち方」
| 特徴 | 天然染料(草木染め) | 化学染料(合成染料) |
| 色の特徴 | 複雑で深みのある色。単一の色素ではなく、様々な成分が混ざり合うため、光の当たり方で表情が変わる。 | 均一で鮮やかな色。安定した単一の色素で構成され、大量生産に適した均質な色。 |
| 色の変化 | 色が育つ。使い込むほど、洗うほどに徐々に色が変化(退色)し、風合いが増す(経年変化)。 | 色が強い。染着が強力で、原則として色落ちや変色が起こりにくいように設計されている。 |
天然染料の色は、まるで生きているかのようです。洗うたびに色が穏やかになり、着る人の肌や生活になじんでいく「育つ布」である点が最大の魅力です。
違い②:環境への負荷とエシカルな価値
| 特徴 | 天然染料(草木染め) | 化学染料(合成染料) |
| 原料 | 植物(藍、樹皮、葉など)、鉱物、昆虫。再生可能な自然資源。 | 石油などの化学物質。製造過程で化学薬品が多量に使われる。 |
| 排水 | 媒染剤の金属を除き、基本的に自然由来の排水であり、環境負荷が低い。 | 排水処理が不十分だと、水質汚染や海洋汚染の原因となる。 |
| 生産背景 | 伝統的な手仕事で、フェアトレードや生産者支援といったエシカルな要素と結びつきやすい。 | 大規模工場での大量生産。生産者の労働環境や安全性が問題になることがある。 |
天然染料は、自然のサイクルの中で資源が循環し、環境への負荷を最小限に抑えます。STORYの布が持つエシカルな価値は、この「自然の恵みを大切にする染色方法」に支えられています。
違い③:繊維への優しさ
天然染料は、アルカリ性や熱を強く利用する化学染料に比べ、繊維を傷めにくいという特性があります。ラオスの手紡ぎ・手織りのコットンは、元々優しい風合いを持っていますが、天然染料で染めることで、そのふっくらとした柔らかさが保たれます。
3. STORYの布の楽しみ方
STORYの布は、藍の深い青、マンゴーの暖かな黄色といった、自然が持つ奥深い色合いに加え、その背景にある「手仕事のぬくもり」と「持続可能な暮らし」のストーリーを内包しています。
この布で作品を作るということは、単にものを作るだけでなく、ラオスの村の女性たちの手技や、自然の恵みを敬う心、そしてそれらを日本に繋ぐ私たちの「想い」までを、あなたの日常に取り込むことです。
ぜひ、この布を長く愛用し、色が変化し、風合いが増していく過程を楽しみながら、「育つ布」としての喜びを感じてください。あなたの手しごとが、遠い国と想いを繋ぐバトンとなることを願っています。

