物語のあるハンドメイド作品~作り手が込めた想いとは
私たちの身の回りにある"もの"は、どこで、誰によって、どのような材料、どのような想いで作られているのでしょうか。
そんな背景や想いなどの “物語” を知ることが出来たら、きっと日々手にする"もの"を大事に、長く、丁寧に使うのではないでしょうか。
本日は、"もの"に込められた"物語"も評価基準に加わった
『ラオスの布で紡ぐ、わたしの手しごと展』
で受賞されたハンドメイド作品をご紹介させていただきます。
1.「Sabaidee Bag」ラオスと日本、ふたつの布がやさしく結び合う
初めにご紹介させていただくのは、最優秀賞を受賞されたutete さんの 「Sabaidee Bag(サバイディーバッグ)」 です。
茶綿の布と余り布が出会うとき
uteteさんが選ばれたのは、ラオス・Napar村で織られた茶綿布。
そこに組み合わされたのは、日本で大切に残されてきた余り布でした。
ラオスの布には「贈る文化」が息づき、日本の余り布には「最後まで大切にする想い」が宿っています。
ふたつの布をかけ合わせることで、国や文化を越えて「つながり」が生まれる――
そんな願いが込められています。
“ほつれ”が生んだデザイン
制作の過程では、手織り布ならではの「糸のほつれ」に気が付きました。
一見すると困りごとに見えるその特性を、utete さんはあえて フリンジ として生かしました。
ポケットの縁やタグまわりにフリンジを添え、ストラップにも遊び心をプラス。
もちろん長く愛用できるように、開口部や金具部分には芯を入れ、実用性にも工夫が凝らされています。
内外ポケットやペットボトルホルダーを備え、手持ちとショルダー、どちらの使い方にも寄り添うバッグに仕上がりました。
“Sabaidee”に込められた想い
作品名の「Sabaidee(サバイディー)」は、ラオス語で「こんにちは」という挨拶。
誰かと出会い、心を通わせるその言葉のように、このバッグもまた、人と人との縁をつないでいきます。
がま口には「縁を結ぶ」という意味も込められており、ラオスの布、日本の布、そして手に取る方の日常が、そっと結ばれていくのです。
STORYより
Sabaidee Bag は、布そのものの個性や文化的な背景、作り手の想いが重なり合って生まれた作品です。
そこには「誰かから誰かへ、そっと渡っていく」あたたかな物語があります。
ラオスの村で織られた布と、日本で受け継がれた布。
その両方がひとつの形になり、日々の暮らしに寄り添っていく。
このバッグが、手にした人の生活に「縁」を届けてくれることを、私たちSTORYも楽しみにしています。
2.「白波トート」ラオス布の深い藍に包まれて
続いてご紹介させていただくのは、優秀賞を受賞されたあかりやさんの 「白波トート」 です。
夏の光に映える鮮やかなブルーの藍染めの手織り布。
その布地をパッチワークとして仕立て上げたのが、「白波トート」 です。
藍の色に出会う
使用されたのは、ラオスで手織りされた藍染めの生地。
厚手で存在感がありながらも、自然染めならではの奥行きある発色が最大限に活かされています。
「海」を思わせる深いブルーは、まさに夏にぴったり。
パッチワークとして組み合わせられた布は、一見無地同士でシンプルですが、糸の細さや太さ、色の濃淡、そして織りのゆらぎが生み出す表情によって、手織りならではの豊かな味わいを感じさせてくれます。
ラオスの布が語るもの
ラオスの布づくりは、自然とともにある暮らしの延長にあります。
木の皮や綿花を使った染色、昔ながらの織り機で一枚一枚を織る作業。
その日常の中で受け継がれてきた布は、整った均一さではなく、織りのクセやゆらぎがあり、それこそが「人の手で作られた証」としての魅力を放ちます。
日本の布が繊細で規則正しいとすれば、ラオスの布は少し自由で、どこか物語を感じさせる。
そうした背景に共感し、「ものの背景を選ぶ」という“story消費”のあり方にもつながっています。
「白波トート」に込められた想い
この作品を手掛けた「あかりや」さんは、ご自身のブランドテーマの1つとして【手仕事のやさしさを日常で感じてもらいたい】という想いを掲げています。
そのテーマを、この「海」の布と重ね合わせて表現されました。
・深いブルーが映えるデザイン
・厚みのある布が生み出す存在感
・そして圧倒的なビジュアルと世界観
「どんな作り手さんがこの布を織ったのだろう」と思いを馳せながら手を動かした時間そのものが、このトートに込められています。
STORYより
「白波トート」は、夏に似合う涼やかさとともに、布が持つ物語をそのまま日常へと連れてきてくれる作品です。
ラオスの布、日本の作り手、そしてこのバッグを手にする方。
布を通じてつながる縁が、まるで波のように広がっていくことを願っています。
3.「作り帯」ラオス布と日本の織物が出会うとき
続いてご紹介させていただくのは、優秀賞を受賞された「オーサカキモノ」さんの「作り帯」です。
『ラオスの手しごと展』に並んだ数々の作品の中でも、ひときわ日本文化との調和を感じさせてくれるのが、「作り帯」 です。
着物屋さんならではの発想から生まれたこの帯は、ラオスの布と日本の伝統織物を組み合わせた、特別な一作となりました。
ラオスの布と播州織の出会い
この作品に選ばれたのは、ラオス・ウドムサイ県Samgan村で織られた「白波」という布。
白い綿糸を藍で染め、濃淡の表情が重なり合う、やさしくも力強い手織り布です。
ただ、提供させていただいた布だけではサイズが足りなかったことから、もうひとつの布を重ね合わせることに。
そこで選ばれたのが、日本の伝統織物 播州織(兵庫県北播磨地域発祥) でした。
豊かな色彩とやわらかな風合いを持つ播州織は、ラオス布の素朴でランダムな格子模様と驚くほど自然に調和し、帯として美しい存在感を放っています。
着物の日常に寄り添う
この「作り帯」は、着物に気軽に合わせられる実用性も魅力です。
撮影時には、大島紬の着物に合わせ、帯留めには水引の菜の花結びをアレンジ。
鹿の子柄の靴紐を帯締め代わりにするなど、伝統と遊び心が絶妙に融合しています。
ラオス布がまるで日本の布のように自然になじむ様子は、「自然との共存や調和には国境がない」ということを物語っているかのようです。
背景にある想い
作品を手掛けた「オーサカキモノ」さんは、ラオスの布に触れたことで「日本とラオスを結ぶ」という可能性を感じたといいます。
やがてはラオスだけでなく、自らの出身国・日本の布産地にも目を向けて支援していきたい――その未来を示すような作品となりました。
STORYより
「作り帯」は、国や文化を越えて、布と布、人と人をつなぐ作品です。
ラオス布の素朴な魅力と、日本の織物が持つ洗練された美しさが結び合うことで、着物という伝統的な日常に新しい息吹を吹き込んでいます。
この帯を締めるとき、そこにはラオスの村の暮らしと、日本の布産地の技、そして作り手の想いが、そっと寄り添っているはずです。
4.「香り袋」布と香りが紡ぐ、小さな物語
次にご紹介させていただくのは、STORY賞を受賞された「草と絲」さんの ラオスの手紡ぎ・手織り布で仕立てられた 「香り袋」です。
見た目はシックで落ち着いた佇まい。
しかし、その背後にはふわふわと柔らかい布の質感と、暮らしの豊かさを映すイメージが広がっています。
ウドムサイの布から生まれるかたち
使用されたのは、ラオス・ウドムサイ県の Kheua Mai Handicraft さんによる白綿の手織り布。
手紡ぎ・手織りによって生まれた柔らかな白布には、細かな網目状の模様が入り、ぽこぽことした立体感が漂います。
繊細で表情豊かなその質感は、まさに「手仕事の証」。
一枚の布にたどり着くまでには、綿を育て、収穫し、糸を紡ぎ、そして織り上げるという気の遠くなるような工程があります。
布を手に取られたとき、その尊い時間と手しごとの積み重ねが、静かに語りかけてくるようだったそうです。
刺繍に込められた風景
袋を彩る刺繍や飾りは、ラオスの暮らしから着想を得ています。
・田んぼの風景
・収穫の実り
・太陽と夜空
日々の営みと自然の恵みをモチーフに、針と糸で描かれた模様たちは、作品に生命力と物語を与えています。
香りとともに広がる使い道
香り袋の中には、自家栽培のハーブが詰められています。
農薬や化学肥料を使わずに育て、丁寧に乾燥させたハーブが放つ香りは、日々の暮らしを優しく満たしてくれます。
さらに工夫されているのは、中身を自由に入れ替えられる点。
香りを変えるのはもちろん、小物入れとしても使えるなど、一つの袋からいくつもの物語が生まれていきます。
「尊い手しごと」を未来へ
作者が願いを込めたのは、
「尊い手しごとが、これからも失われることのないように」 という思いでした。
ひとつの香り袋には、布の質感や刺繍の物語だけでなく、布づくりに関わる人びとの暮らしや時間が宿っています。
それを日常に取り入れることは、手しごとの価値を未来へつなげていくことでもあります。
STORYより
「香り袋」は、シックなトーンの中に、布の温もりと自然の香りを閉じ込めた作品です。
小さな袋に込められたのは、ラオスの風景、作り手の祈り、そしてこれからの暮らしをやさしく彩る無限の可能性。
日々の中でそっと手に取り、香りを感じるたびに、布とともに受け継がれてきた「手しごと」の尊さに触れることができます。
5.「ターバンキャップ」NtoRさんが見つめた“私”というテーマ
次にご紹介させていただくのは、STORY賞を受賞された「NtoR」さんの「ターバンキャップ」。
この作品は、NtoR さん自身が掲げた制作テーマ「私」に基づいて生まれました。
この作品に選ばれたのは、ラオス・ウドムサイ県Samgan村で織られた「白波」という布でした。
“私”を映す、多彩な布づかい
「私とは何か」。
楽観的であったり、内気であったり、感情的であったり。
人はさまざまな側面を持ち、それらが重なり合ってひとりの人間を形づけています。
NtoR さんは、その多面的な自分自身を「布の組み合わせ」によって表現しました。
刺繍や色彩、カラフルな要素を盛り込みながら、「好き」の結晶体として形にしたのが、このターバンキャップです。
ターバンキャップという挑戦
これまでのヘアターバンづくりから一歩踏み出し、今回は キャップ型 に挑戦。
・薄くて通気性のある布を活かし、帽子としての形に仕立てる
・顔周りにゴムを入れてやさしくフィット
・リボンは結んだり、ねじって織り込んだり、2way で楽しめる仕様
・裏地にはラオス布を採用し、気分によって見せ方を変えられる工夫
・ロングヘアはすっぽり収まり、ショートヘアはリボンに織り込んで調整可能
実用性と遊び心をあわせ持つ作品になっています。
未来へつながる想い
この作品にはもうひとつの願いが込められています。
それは、髪に悩みを抱える方や、医療帽子を必要とする方にも届けたいという想い。
「ターバンは少し勇気がいるけれど、帽子なら手に取りやすいかもしれない」
そんな思いから、新しい可能性を探る挑戦が込められています。
“好き”を集めた結晶
アジアンテイスト、絵画のような色彩、刺繍、カラフルさ、そしてチャレンジ。
NtoR さんが今大切にしていることをすべて詰め込んだ、まさに「私」を表す作品です。
ハンドメイドを通して自分と向き合い、自分らしさを表現しながら、同時に誰かに寄り添う。
「ターバンキャップ」には、そんな深い物語が込められています。
STORYより
「ターバンキャップ」 は、ひとつのファッションアイテムであると同時に、作者が自分自身を見つめ直し、未来へ想いをつなぐために生まれた作品です。
布と刺繍に込められた多面的な“私”の表現は、身につける人にとっても「自分らしさ」と向き合うきっかけになるかもしれません。
それは単なる帽子ではなく、生き方や想いを映す鏡のような存在。
「ターバンキャップ」は、日常の中で静かに寄り添うパートナーとなるでしょう。
6.「三徳袋」ラオスと日本の手仕事が結び合う
最後にご紹介するのは、祈織いのりさんが手掛けた 「三徳袋」 です。
ラオスの手紡ぎ・手織り・手染めによる漆黒の布を使い、日本の伝統技法と融合させることで生まれた作品には、深い祈りと願いが込められています。
樹皮・泥染めから生まれる黒
使用された布は、ラオスで紡がれ、織られ、そして樹皮と泥で染められたもの。
化学染料ではなく自然から引き出された漆黒は、静けさと力強さをあわせ持ち、見る人に深い余韻を残します。
その布を手にした祈織いのりさんは、「三徳袋」というかたちに仕立てました。
手仕事の融合
袋の仕立てには 千鳥掛け を取り入れています。
ラオスの布に、日本の縫いの手仕事を重ねることで、国と国、伝統と伝統が手を取り合うようなかたちになりました。
作者が込めた想いは、作品の背後に広がっています。
国と国が手を取り合い、すべての生きとし生けるものの存在を感じ、
地球の恵みに畏怖を忘れず、人もその循環の中に在ることを自覚していく。
小さな袋に込められたのは、新しい地球を共につくっていきたいという大きな祈りです。
STORYの理念と重なって
祈織いのりさんは、STORYの活動にも深く共感してくださいました。
日本ではすでに失われてしまった綿の自給や、手紡ぎ・手織りの布づくり。
それらが今も日常の中に生きているラオスを支援する取り組み。
STORYが大切にしている「story消費」の考え方、それは「ただの買い物ではなく、物語を選び、ともに暮らすこと」。
祈織いのりさんの作品「三徳袋」にも、その理念は重なり合っています。
STORYより
「三徳袋」 は、単なる実用品ではありません。
ラオスと日本の手仕事が結び合い、自然と人の営みが循環することを願って生まれた作品です。
ひとつの袋に込められた祈りは、手にする人の暮らしの中で静かに息づき、次の人へと物語をつないでいくことでしょう。
おわりに
本日は、『ラオスの布で紡ぐ、わたしの手しごと展』
で受賞されたハンドメイド作品をご紹介させていただきました。
作り手さん方が作品づくりの際に込められた背景や想いを知っていただけましたでしょうか。
私たちは日々たくさんの"もの"に囲まれて生活しています。
今回の記事をきっかけに、身の回りにある"もの"が、どこで、誰によって、どのような材料、どのような想いで作られているのかを考えるきっかけになっていただけたら幸いです。
STORYでは、"もの"に込められた背景や想いを “物語=story” として丁寧に伝えながら、「“もの”を通して想いがめぐる循環の仕組み」を提案しています。
STORY消費は、ただの「買い物」ではなく、「物語を選び、ともに暮らす」こと。
そしてその選択は、やさしく、しなやかに、けれど力強く、社会を変えていきます。
私たちは、STORY消費という新しい選択肢をこれからの「当たり前」にしていきたいのです。